急性痛に対する蔗糖などの甘味物質を用いた一時的な痛覚抑制効果の検証は、新生ラットや新生児を対象に多くの検証がおこなわれている。また、この鎮痛機序には甘味を感じることを契機に内因性鎮痛機構が賦活することが立証されている。しかし、新生ラットや新生児の成長に伴って甘味の痛覚抑制効果は減弱することから、それ以外の対象では検証自体がほとんど行われていない。そこで、本研究は健康成人を対象に、蔗糖の甘味刺激による痛覚抑制効果を解明することを目的におこなった。実験はクロスオーバーデザインを用いて、無作為化比較試験で実施した。まず、甘味による急性痛に対する効果を男性と女性で、それぞれ予備実験をおこなった。その結果、男性被験者では実験的疼痛に対する痛覚潜時が甘味刺激によって有意に延長した。これに対して、女性被験者では味覚刺激による痛覚潜時への影響は確認できなかった。次に、健康成人男女を対象に、庶糖の甘味刺激による痛覚抑制効果について同時に検証をおこなった。実験では、実験的疼痛に対する痛覚閾値、耐痛閾値、心理テストを用いた情動反応測定、急性ストレス指標である唾液中α-アミラーゼ値、痛覚強度及び味覚の心地よさの各主観的評価を指標に採用して多角的に検証した。その結果、予備実験と同様、健康成人男性では蔗糖の甘味刺激によって実験的疼痛に対する痛覚潜時が有意に延長するのに対して、女性被験者では確認できなかった。よって、ヒトの痛覚感受性は味質によって影響を受けるとともに、蔗糖の甘味刺激による抗侵害受容効果の発現には性差が関与していることが示唆された。
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