手術を受けた患者の10から30%に起きる術後の一過性の精神障害、所謂術後せん妄は、一旦引き起こされると、術後の回復過程を遅延させ、入院期間の長期化、転倒などの二次合併症を引き起こす。従来看護師は術後せん妄症状の一つである睡眠覚醒リズムの障害(昼夜逆転)に対し、患者が太陽光を浴びることによる昼夜逆転のリズムを正常な体内リズムに調整させるブライトケアを実施してきた。しかし、その方法の有効性については症例研究として報告されているものの、エビデンスの構築までには至っていない。そこで、本研究は術後患者に高照度光照射を用いたブライトケアの術後せん妄発症回避手法としての介入効果を明らかにすることを目的とした。今年度は8月からA総合病院外科病棟にてデータ収集を開始した。対象は予定開腹手術を受ける患者とし、研究実施前に同意を得た患者であり、精神疾患および眼科疾患の現病歴を持つ者を除外した。高照度光療法の実施の有無は封筒法によって介入群とコントロール群を1対1に無作為に割り当て、現在までに30名のデータ収集を行った。介入群には術後1日目から3日目の朝、対象の起床時間に約2時間、1.500Lux前後の光を照射し、適正照度が照射されていることを照度計で測定した。一方、コントロール群には病棟で通常行われているケアのみとした。また、対象患者全員の病室に高照度光装置を設置することにより、アウトカムを評価する研究者が、介入実施の有無がわからないよう盲検化を行った。現在までに高照度光照射によって副作用が生じた対象者は0名で、ベッドサイドで光療法を実際に行うことができることを確認した。統計使用上有効な対象数まで到達していないため、次年度もデータ収集を継続し、介入群と非介入群のoutcomeについての差を検討予定である。
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