生体肝移植は末期の肝不全患者に対する一治療として確立し、高い生存率を誇っている。しかしその一方で、生存率は高いが合併症などが多く患者のQOLは必ずしも高くないのではないかと言われている。その状況を踏まえ、外来通院中の生体肝移植後の成人レシピエントを対象に、包括的QOL(SF36)・生体肝移植に関する生活上の困難・不安や抑うつの程度を測定し、レシピエントのQOL(身体機能・日常役割機能(身体)・社会生活機能)が一般健康人より有意に低いこと、QOLは時間の経過とともに向上する傾向があることを示した。さらに、包括的QOL、生体肝移植に関する生活上の困難、不安・抑うつの全てに、ドナーとの関係が強く関連しており、生体肝移植特有の状況として、レシピエントと生体ドナーとの関係を踏まえた支援の必要性が示唆された。この研究は生体肝移植患者のみを対象とし信頼性・妥当性の検証がなされた尺度を用いてQOLを明らかにした世界でも類を見ない試みであった。しかしながら、この研究は横断的な一時点での研究であったため、移植がQOLに与える経時的な影響の検討は行っておらず、因果関係の推論は困難であった。また、この種の調査においては、包括的QOLでは測定できない生体肝移植特有の問題を把握する必要性が示唆された。以上を踏まえ、生体肝移植特有の疾患特異的QOL尺度を開発し、術前から術後繰り返しQOLを測定することにより、生体肝移植レシピエントのQOLの推移を明らかにし、今後の臨床での情報提供やケアに役立てていく必要があると思われる。そこで、生体肝移植を受けた20歳以上の成人レシピエント・ドナーとその家族、移植医療経験のある医療従事者を対象とし、生体肝移植レシピエントの疾患特異的QOL尺度の開発に向けての、インタビュー調査を行い、同意を得たうえで録音及び逐語録の作成を行った。また、先行研究及び国内外の学会などで分析に必要な情報収集を行った。
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