まず、女性不妊治療患者(不妊女性)が周囲の人々との間で経験するPositive social interactions (PSI)およびNegative social interactions (NSI)の評価尺度を、ソース別(夫、両親、夫の両親、友人・その他)に開発するために、プレテストおよびリテストを実施した。先行研究(Akizuki 2008)の結果にもとづき作成したアイテムプールをもとに、夫PSI、夫NSI、両親PSI、両親NSI、夫の両親PSI、夫の両親NSI、友人・その他PSI、友人・その他NSIの尺度の質問項目を作成した。プレテストは各尺度の表面的妥当性、因子構造、回答分布、信頼性を確認するために、34名の不妊治療経験者を対象に郵送法にて実施した。リテストは各質問項目の安定性をみるために、プレテストから4週間後、プレテスト参加者のうち25名に対しプレテストと同様の質問紙調査を実施した。その結果いずれの尺度も主成分分析により1因子構造であると考えられ、α係数は0.89~0.97であり、8つのいずれの尺度においても、信頼性、安定性のある使用可能な尺度であることが確認された。 次に、不妊女性が経験するPSIおよびNSIと彼らの精神的健康との関連を明らかにすることを目的に本調査を実施した。先に開発したソース別PSIおよびNSI尺度を説明変数とし、CES-Dを従属変数とする質問紙を作成し、関東圏内の医療機関に通院する不妊治療患者300名を対象に郵送法による調査を実施し、206名から回答を得た(回収率68.7%)。重回帰分析の結果、ソース別PSIと不妊女性の抑うつとの関連はいずれのソースにおいてもみとめられなかったが、NSIにおいては、友人・その他、夫、夫の両親の順に強い関連がみとめられた。また、不妊女性の抑うつに対する夫NSIと夫の両親NSIの交互作用がみとめられ、夫NSI低群では夫の両親NSIは抑うつを高めなかったが、夫NSI高群においては夫の両親NSIが抑うつを高め、夫NSIおよび夫の両親NSIともに高群に属する人がとりわけ高い抑うつを示した。これらのことから、PSIは精神的健康に大きな影響を与えないが、NSIは不妊女性の精神的健康のストレッサーとなりうることが示唆され、複数のソースからのNSIを経験すること、とりわけ夫と夫の両親からのNSIを経験することは、彼らの精神的健康の悪化を増幅させる可能性が示唆された。23年度は結果を公表していく予定である。
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