研究概要 |
グローバル化が進む現代、看護職が異文化を背景とする対象と関わる機会はますます増えてきている。特に、妊娠・出産・産褥・育児期は、固有の文化がその事象や行動に大きく影響する時期でもあり、異文化看護的視点、文化を考慮した看護支援を見出すことが必要である。東南アジアのタイやラオスでは産褥期にユーファイやカラムキン(カンカムキン)という慣習が広く実施されている。本研究は、近似した文化圏である両国において、産後慣習の経験や実態、支援を明らかにし、慣習の変化や看護支援について両国の比較をもとに研究し、文化を考慮した看護支援方策を見出すことを目的としている。 ユーファイは、産後の数日から1ヵ月間、炭の側で過ごすという行動制限を伴う慣習で、カラムキンとは産褥期に食事制限を行う慣習である。これまでのフィールド活動や先行研究で明らかにしたラオスにおける産後慣習の実態と比較するため、ラオスと国境を接するタイ北部パヤオ県において調査を実施した。伝統医療医1名と高齢者10名を対象に、産後慣習の実施方法や価値観について、半構造的面接法を用いて聞き取り調査を行った。さらに、伝統医療医により設定されたユーファイの場にて、慣習を実施する様子を参加観察法にて調査した。伝統医療医および高齢者は、慣習実施の理由に子宮復古、創傷治癒、身体及び精神のリラックス、母乳栄養の改善などをあげており、産後慣習が代替医療的要素も含まれる民間的ケアであることが分かる。親族には慣習の実施を勧めるという高齢者が多く、今後も伝承されていく一方、タイでは、近年の経済発展とともに保健医療分野の近代化が進んでおり、伝統の継承が困難であることも考えられる。そのような場面では,実施方法を対象と共に調整していくなどの文化を考慮した看護支援が重要となる。
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