本研究では、対人交流やコミュニケーションに支障を持ち、認知症治療病棟に入院している高齢者に、動物を活用したレクリエーション(Animal Assisted Activity : AAA)を実施し、継続的かつ詳細な観察や評価を通して患者-動物間、動物が存在する環境での患者間における、コミュニケーションについて詳細に記述し分析を試みた。対象病棟のケア職員に対しては質問紙調査を用いて、AAAの捉え方について調査した。参加高齢者に対してはコミュニケーションの様子について継続的にビデオを用いて観察した。参加高齢者の動物の行動や状態に関する発話は初めから比較的多く見られ、犬の心的状態に関する発話は少ないが徐々にみられる様子が観察された。 これまで、高齢者に対しては、動物が存在することによって社会相互作用が促進されるという結論が導かれていた。この社会相互作用に影響する過程について、本研究で調査をすると、ケア職員は動物の存在が短期間に対象者のコミュニケーションや関心を期待するほどには促進しないと認識していることが明らかになった。それと同時に継続的長期的介入が、対象者の関心を抱かせ、コミュニケーションを楽しむことにつながると認識していることがわかった。 AAAという場が動物と高齢者が一対一で対峙する場ではなく、発展的な会話が出現していることがわかった。他の参加者やボランティア、ケア職員がそれぞれの役割や立場から参加することにより会話や関係性がより発展したことについても明らかである。 すなわち、動物を活用したアクティビティやセラピーは、その場を構成する人の力にも効果が大きく委ねられているともいえるだろう。ボランティアや職員の場を盛り上げようという会話、また認知症高齢者の反応を細やかな視点で読み取り、わずかな関心をも誘発させ、会話を発展していく入の力があってこそ、認知症高齢者の関心やコミュニケーションが発展していくことが明らかになった。
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