本研究の目的は、筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)長期人工呼吸療養者の生活の質の向上に寄与するために、1)わが国における長期人工呼吸療養者に生じる健康問題とその対応に関する支援の体系化を図ること、2)米国における1)についての相違点を検討し、長期人工呼吸療養者へのケアの基準化についてを考察することである。 従来、ALSでは眼球運動障害や随意運動障害以外の症状は生じない(陰性徴候)とされてきたが、経過に伴い、これらの陰性徴候が出現しうることが知られている。しかし、その発生状況や対応については、明らかになっておらず、対応は困難を極めている。本研究では、10例の詳細な療養経過の分析により、生じていた対応困難な健康問題を抽出し、さらに、2病院における横断調査により、その出現程度を踏まえ、身体部位別に整理した。その結果、対応困難な健康問題は、眼乾燥や滲出性中耳炎、ロ腔内症状、循環器症状(血圧変動、低体温など)、消化器症状(ガス貯留、腫瘍、血糖値変動など)、感染症状など全身各部に至ること、特に眼球運動障害に伴う意思伝達困難により、症状の出現や程度の把握が極めて困難なこと、これらの症状の出現は人工呼吸療法期間と必ずしも関係があるわけではないことが明らかとなった。また、文献検討や招聘者とのディスカッションにより、欧米では、社会文化的背景の相違があり、長期人工呼吸療養者やその転帰の把握が非常に困難であるものの、生じた対応困難な症状には、共通性があることが明らかとなった。 今後は、生じた健康問題の発生機序とその対策に関する検討と米国での状況を踏まえた考察により、その支援方法についての体系化を図ることが課題である。
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