1.本研究の目的は、貧困世界におけるスポーツ実践を契機としたコミュニティ形成の内実を明らかにすることであった。 2.今年度の調査研究では、この点をマニラ首都圏パラニャーケ市のEボクシングジムのフィールドワークを通して解読してきた。また、来日中のフィリピンボクサーと行動を共にし、貧困世界のアスリートにとっての海外移動の実存的意味の解読に努めた。さらに、アジア経済研究所、筑波大学図書館などにおいて、現在フィリピンをめぐるマクロ政治経済動向とマニラ首都圏の都市構造転換をめぐる各種終了を収集し、フィールドワークの成果を構造的に位置づける作業をおこなった。 3.こうした経験的調査を重ねる一方で、本研究の社会学的認識論の基軸となるピエール・ブルデューの社会理論に関する研究会を開催し、理論的研究もおこなってきた。また、ブルデュー派の社会学者でアメリカのゲットー研究を牽引しているロイック・ヴァカンの著作の検討もおこない、本調査研究の認識論的前提を反省化する作業も試みた。 4.以上のような、経験的かつ理論的な考察を積み重ね、次のような具体的成果を敢行した。まず、「貧困世界における身体文化形成をめぐる社会学的研究」として博士学位論文をまとめた。この成果は、さらに今後、広く一般読者にもアクセス可能な媒体で公刊を予定している。また、論文「貧困世界におけるボクシングセンスの社会的構成」『北海道大学大学院教育学研究院紀要』107号を執筆した。さらに、理論研究としてロイック・ヴァカンの執筆したBody & Soulを翻訳し、2010年度には刊行予定となっている。
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