研究概要 |
本研究課題では,複数の右辺ベクトルを持つ連立一次方程式の高速求解法の開発を目的としている.このような連立一次方程式は,格子量子色力学計算の物理量計算や,代表者らが提案している周回積分を用いた並列固有値解法で現れる.これらにおいて,連立一次方程式の求解が計算時間の大部分を占めるため,高速化が必要とされている. 複数の右辺ベクトルを持つ連立一次方程式の反復解法として,Block Krylov部分空間反復法が提案されている.今年度は,Block Krylov部分空間反復法の研究動向を調査し,周回積分を用いた並列固有値解法に適用した.Block Krylov部分空間反復法は,前処理と呼ばれる技法と組み合わせて用いることで,反復回数が大幅に減少する.しかしながら,前処理を精度良く行うと反復回数は減少するものの,多くの計算時間とメモリ量を必要とする.計算時間とメモリ消費量を抑えるため,前処理をより不完全に行った場合,従来のKrylov部分空間反復法では解を得るまで非常に多くの反復回数を要した.一方,Block Krylov部分空間反復法を適用することで,同じ精度の前処理にもかかわらず従来の方法よりも圧倒的に少ない反復回数で解が得られることを明らかにした. 平成20年度は,Block Krylov部分空間反復法を適用するだけでなく,解法そのものの研究も実施した.上記のように,Block Krylov部分空間反復法を適用することで,少ない反復回数で解が得られるが,最終的に得られる解の精度が悪化する可能性があることがわかった.代表者らは精度悪化の原因を突き止め,高精度の解を生成する新たなBlock Krylov部分空間反復法を提案した(論文投稿中).
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