側頭葉てんかんは頻度が高く、また難治性の疾患である。申請者はその側頭葉てんかんの発症過程に重要な役割を果たすと考えられている苔状線維発芽の制御メカニズムを解明するにあたり、Wnt阻害因子sFRP3に注目した。すなわち`sFRP3は顆粒細胞の軸索伸長を抑制的に制御しており、てんかん発作時の電気的刺激によるsFRP3発現量の減少が苔状線維発芽を誘導する'という仮説を立て、その検証を行っている。 本年度は研究期間の初年度にあたり、まずピロカルピン投与によるけいれん重積発作のモデルを確立した。さらにけいれん発作を誘発したマウスの海馬よりRNAを抽出し、sFRP3の発現量を測定した。その結果、海馬におけるsFRP3発現量は、ピロカルピン投与後速やかに50%まで減少し、その後約4週間かけて徐々に回復することが分かった。他のsFRPサブタイプ(1-5)ではこのような変化は全く見られず、この結果が細胞へのダメージによるものでないこと、またsFRP3に特有であることが分かった。さらにこの結果をin situハイブリダイゼーションによっても確認した。 次にsFRP3ノックアウトマウスを用いた解析を行った。ピロカルピン投与モデルでは、急性期の重積発作ののち数週間のあいだに苔状線維発芽を含めた神経回路の再構築が起こる。マウスにピロカルピンを投与し60日後に苔状線維を観察したところ、sFRP3ノックアウトマウスでは野生型と比較して有意な苔状線維発芽の促進が見られた。 これらの結果によりsFRP3が苔状線維発芽の形成に重要な役割を果たすことが明らかとなった。次年度はこの結果をさらに他の方法により検証するとともに、ウイルスを用いた遺伝子導入法などと組み合わせることによって細胞レベルでのメカニズムを解明したい。
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