側頭葉てんかんは頻度が高く難治性の疾患である。申請者はその側頭葉てんかんの発症過程に重要な役害割を果たすと考えられている苔状線維発芽の制御メカニズムを解明するにあたり、Wnt阻害因子sFRP3に注目した。すなわち'sFRP3は顆粒細胞の軸索伸長を抑制的に制御しており、てんかん発作時の電気的刺激によるsFRP3発現量の減少が苔状線維発芽を誘導する'という仮説の検証を行っている。 研究期間の2年目に当たる本年度は、sFRP3ノックアウトマウスにピロカルピンを投与してけいれん重積を誘発したのち、苔状線維発芽の状態を経時的に観察した。その結果、投与30日後ではノックアウトマウス/野生型で違いは見られないが、60日後にはノックアウトマウスにおいて有意に苔状線維発芽が促進され、90日後にはその違いがさらに顕著となった。しかしこの時点で一日のあいだに見られるてんかん発作の回数については差が見られなかった。 次にsFRP3の減少が海馬顆粒細胞の軸索伸張を促進するのならば、sFRP3の補充により苔状線維発芽は抑制されるかもしれないと考え、浸透圧ポンプによるsFRP3蛋白のマウス脳室内への投与を目指している。現在浸透圧ポンプによるsFRP3蛋白投与の系を確立し、投与を受けた野生型マウスでは海馬神経新生抑制され、かつsFRP3ノックアウトマウスでは神経新生の促進が消失していることを確認した。今後、ピロカルピン投与モデルに応用し、苔状線維発芽が抑制されることを確認したいと思う。 これらの結果によりsFRP3が苔状線維発芽の形成に重要な役割を果たすことが明らかになった。今後行う実験によりsFRP3の投与が苔状線維発芽を抑制することを示すことができれば、側頭葉てんかんの予防と治療法につながると考える。
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