研究概要 |
前年度では、左右空間位置情報の違いによって、反応時間課題における行動学レベルでの違いや主観的難易度の違いを明らかにした。本年度では、その結果を踏まえたうえで、課題遂行中に被験者の対側運動野と同側運動野に磁気刺激(transcranial magnetic stimulation, TMS)を与え、運動誘発電位(motor evoked potential, MEP)を指標に皮質脊髄路の興奮性の変化と違いについて検討した。具体的には、以下の内容を実施した。 1. 選択反応時間課題について、前年度で使用にしたものを改良し、パソコン画面上中心より0°,45°、135°、180°、225°、315°の位置に「○」を1つずつランダムに示し、両手を左右交差しない状態と交差する状態で左・右の示指屈曲運動を用いて反応時間を計測した。健常右利き成人9名(男4名、女5名、22-32歳)では、反応時間は交差しない場合(左:168±12ms;右:172±15ms)よりも交差するほう(左:205±16ms;右:218±15ms)が有意に遅延した。 2. 各被験者における反応時間の結果に基づき、左・右第一背側骨間筋の表面筋電図より、筋放電開始70ms前にTMSを駆動しそれぞれの筋からMEPを記録した。画像とTMSパルスの同期には自作LabVIEWプログラムを用いた。結果として、両手を交差しない状態では安静時に比べ運動肢と対側・同側のMEP振幅値はともに増加した。一方、両手を交差するだけ(安静時)では左右のMEP振幅値は変化しなかったが、課題中ではMEP振幅値が増加し、交差しない場合よりもその増加量が多かった。すなわち、左右肢空間位置の逆転によって対側および同側の皮質脊髄路の興奮性が増大することが示唆され、中枢神経系損傷者の運動回復を図る手法として利用できる可能性が示された。
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