研究概要 |
本研究は,大卒者のキャリア形成に対する学生時代の課外活動経験の影響を検討するものである.大学全入時代への移行とともに,大卒者のキャリア形成,とりわけ未就労や早期離職といった労働への不適応が社会問題化した.多くの論者は学生時代から「若者の社会的ネットワーク・組織への適応力」を育成すべきであると主張する一方,そうした力を養うことが期待される課外活動の効果への注目は不十分であった.したがって本研究は,キャリア形成に対して有効な課外活動を検討すべく,大学時代の課外活動の内容が就業と離職に及ぼす影響を考察することを企図した. 当初,地元ハローワーク等の協力を仰ぐ予定でいたが,リーマンショック以降の不況で調査協力を依頼できる状況になくなったため,計画が修正された.結果,史料調査と大卒者向けアンケート調査の2つに分けて構成された. 一つは「課外活動経験が就職に有利となる」という観念の一例として「体育会系」に注目し,わが国においてこうした考え方が(1)大正初期から昭和初期にかけ,(2)日本企業が広報と離職防止の意図をもってスポーツ振興を進めた結果台頭したこと,また(3)慢性的な不景気から労働運動が激烈を極める時期にあって,左翼思想への警戒,すなわち思想穏健の代表として出現したことを,当時のビジネス雑誌『実業之日本』の記事を分析して明らかにした.わが国において課外活動経験は,早くから就業に影響を及ぼしていたと言える. 他方,道内私立大学卒業生に対し,課外活動経験と現在の就労状況に関するアンケート調査(郵送法)を行った.配布2,495部,回収330部(回収率:13.3%)であった.質問項目には「教育課程内の活動」水準を測る項目も含まれるため,就労や離職に対する課外活動の意義をより正確に抽出できると考えられる.
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