現在のところ、高速で移動する物体に対する視認の成否を客観的に評価した研究は存在しない。そこで、まず視認の成否を定量的に評価する方法として、動体視力を客観的に定義することを第一の目標とした。従来の動体視力測定法は、各被験者の自覚を基準とし客観性に欠ける。本研究では、心理物理学的研究で用いられる強制的選択法を用いて計測を行い、定量的な反応曲線を描いて客観的に動体視力を定義するとともに、その反応曲線から一般人と競技者の動体視力差を生み出す視認メカニズムについて明らかにした。 定速で移動する大小各4方向のランドルト環を2回提示し、その直後にランドルト環の方向を強制的に回答させた。正解率と移動速度の間の心理物理曲線を描き、正解率75%と交わる移動速度を動体視力と定義した。その結果、大きいランドルト環の呈示に対して一般人の平均動体視力は387.59±81.27度/秒、競技者では579.38±20.39度/秒となり、小さい環に対しては、それぞれ296.60±28.17度/秒、409.12±77.53度/秒となった。分散の差異は反応曲線の傾きに由来しており、各被験者について動体視力値が大きくなるにつれ傾きは有意に変化していた(P<0.05)。これによって、動体視力を心理物理曲線を用いて客観的に定義することに成功した。また、その曲線の傾きの違いが、高速移動物体に対する視認の成否に関係していることが明らかになった。来年度には、視認の成否を精密眼球運動計測で得られた眼球運動データと照らし合わせ、視認の成否を左右する眼球運動制御機構に迫るとともに、感覚情報を伴う条件下において行った実験について同様の解析を行う。
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