研究概要 |
本年度の研究目的は, 地球温暖化評価の分野で用いられている環境経済モデルの理論的未解決部分に対して厚生経済学の立場から理論的精査(理論分析)を行うことである. 本年度の研究成果は以下の通りである. 第1に, 市場経済への温暖化被害のフィードバックを考慮したBaUシナリオとしての市場経済の定式化に関して, マクロ経済成長理論を用いた理論的考察から, 以下の2点が示された. (1) 市場経済の問題において, 温暖化の外部性は最適化問題の制約条件に含まれないこと (2) 市場経済と社会的最適の2つの経済の動学体系は経済活動および温暖化による外部性から成る微分方程式体系で表現されるが, それらは全く異なる体系であること 第2に, 経済活動への温暖化被害のフィードバックを考慮した市場経済の問題を非線形計画問題として解くために, 資本ストックおよび温暖化被害に着目した繰り返し過程による計算から, 以下の2点が示された (1) これまでのBaUの値は過小評価であると考えられること (2) 経済活動への温暖化被害のフィードバックを考慮した市場経済の問題は, それを考慮しない場合のBaUと比較して, 大きくはないものの差が生じること 第3に, 等価的偏差(EV)の概念を用いたマクロ経済モデルの便益評価理論の提示においては, 温暖化対策による直接効果の計測だけでなく, 効用の変化分を貨幣タームで評価した福祉効果, 生産および排出権収入の変化による所得変化効果, 社会的費用を表す投資の変化分に分割し各効果の計測を行うことができることを費用便益分析の観点から提示した.
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