研究概要 |
本年度の研究目的は,昨年度に検討した理論分析の結果を踏まえて,多地域・動的な環境経済モデルの構築とそれを用いたシミュレーション分析による,気候安定化政策の経済評価(実証分析)を行うことである.本研究では気候安定化政策のシナリオとして,(1)基準シナリオ,(2)CO2濃度450ppm安定化,(3)CO2濃度550ppm安定化,(4)CO2濃度650ppm安定化の4つのシナリオを想定している.本年度の研究成果は以下の通りである. 第1に,気候安定化シナリオの選択にいくつかの意思決定基準を適用し評価を行った.その結果,以下が示された. (1)全球規模では,いずれの意思決定基準を用いても,CO2濃度650ppmシナリオが選択される結果となる.一方,日本への適用を行った分析では,多くの意思決定基準においてCO2濃度650ppmシナリオが選択されるものの,より悲観的な立場を重視する意思決定基準を用いた場合には,より厳しいCO2濃度550ppmシナリオが選択される結果となる. 第2に,気候安定化政策の社会的便益を評価するために等価的偏差(EV)との関係に着目し,等価的偏差を福祉効果,所得効果,投資の変化分の各効果に分割することによって,これらの効果を計測した.その結果,以下が示された. (1)気温変化による効用関数への影響がある場合,全ての地域及び全てのシナリオにおいて,社会的便益に対する正の福祉効果が確認された.また,福祉効果は気温変化による影響の大きさに依存し,気温変化による影響が大きいほど,より厳しい気候安定化政策の福祉効果は大きくなることが示された. (2)気候安定化政策が厳しくなるほど,気温変化による効用関数への影響を考慮しない場合,全ての地域のEVが減少するのに対して,効用関数への影響を考慮した場合,EVが増加する地域と減少する地域に分かれることが示された.
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