本研究では、インクジェット塗布法を用いてカーボンナノチューブ(CNT)透明電極を作製することを目的とする。これは、近年、資源の枯渇が問題視されている透明導電膜材料であるITOの代替材料として高い導電性を有するCNTに着眼した研究である。さらに、高度に分離された金属性CNTと簡便な成膜技術であるインクジェット法(IJ法)を併用することで、汎用で優れた伝導性をもつ透明導電膜を達成することを最終目標とする。本年度は、金属CNTの厚膜を作製し、その電導特性を評価した。触針計を用いた高さ評価においては、膜端が盛り上がるコーヒーステイン現象が起きていることが分かった。また、厚塗りを行うに当たって、基板上のCNT膜の厚みによってインク溶剤の乾燥速度が低下し、膜の直径が大きくなることが明らかとなった。導電膜の大面積化においては、重ね塗りによるパターニングが必要とされる。そのため、乾燥パラメータ及び滴下間隔を最適化することで、コーヒーステイン現象を抑制に成功した。一方、このような印刷型の導電膜は、透明導電膜としてだけでなく電極材料としても有効である。そこで、この導電膜を電極とした薄膜トランジスタを印刷技術で作製した。ソース・ドレイン・ゲート電極をCNTの厚膜で作製し、チャネル部分に半導体的な性質のCNT膜を塗布した。このようにCNTを使うことで、半導体も金属も用意でき、且つIJ塗布が可能であることから、印刷技術によるデバイス開発が容易になると予想される。今後は、この技術を基本にすることで、IJ印刷技術を利用したCNTデバイス開発が飛躍すると予想される。特に、フレキシブルエレクトロニクスといったフレキシブルな電子材料としての応用が期待される。また、本研究成果は、学術論文や特許としても公開した。
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