本研究では、最終氷期を含む後期更新世から現世までの海洋環境の復元を高時間分解で行うことを目的としている。特に堆積物中に含まれる陸域起源物質に着目することで、堆積当時の陸域環境と海洋環境のリンクを取ることを最終的な研究目的とし、そのことが現在の海洋環境評価の基礎データになるものと考えている。この目的の遂行のため東京大学海洋研究所および海洋研究開発機構によって採取された海洋底の状態を維持する極めて再現性の高い表層遠洋性海洋堆種物を後期更新世以降の古海洋環境復元試料として研究試料に供している。 2008年度ではこれらの試料のうち数コアについて日本原子力研究開発機構の研究炉JRR-3MおよびJRR-4による機器中性子放射化分析(INAA)法および即発ガンマ線分析(PGA)法を適用した多元素分析を行った。これらの手法から得られた定量値を多次元ベクトルと見なし、供給源に合致する元素濃度パターンの抽出を行う独自の統計処理によって、堆積物に含まれるオーストラリアならびにニュージーランドから風送されるレスの寄与量を推定することが出来た。これまで堆積物の起源推定は陸源からの距離が近い海域や雪氷試料が採取できる地域に限定され、また複数の陸域供給源が存在する場合には大きな海洋底環境の変動がない限り、正確な供給源を推定することは困難であった。本研究の成果はこのように沿岸域に限定されていた堆積物の起源推定を遠洋性の海洋堆積物に適応することが出来た点に特長がある。つまり既存の供給源推定法を適応できる南極やグリーンランド、あるいは高山などの極域近辺以外に、中央海嶺域やハワイ沖などの遠洋性地域、すなわちこれまで起源推定法が存在し得なかった海域について、容易に本手法が適応できることから地球化学的に非常に重要な意味をもつ。
|