ハンチントン病に代表されるポリグルタミン病では、正常タンパク質のポリグルタミン領域が遺伝子変異により異常延長することで細胞内凝集を起こし、その過程で知能障害や運動障害を起こすと考えられている。本研究の目的は、ポリグルタミンの形成する凝集体の精密構造を固体NMRにより決定し、ポリグルタミン病の分子機構を解明することを目標としている。昨年度までに、凝集体を形成する最短のポリグルタミンペプチドは7残基であることを明らかにした。今年度は(1)短鎖ポリグルタミンペプチドが凝集体内で形成する二次構造の同定と、(2)アミロイド様凝集体の染色試薬であるチオフラビンT(ThT)を指標とした、ThT被認識ポリグルタミン凝集体の構造解明を目的とした、^2H標識ThTの合成を行った。 (1)5~10残基の合成ポリグルタミンの固体13C NMRを測定し、化学シフト値を調査したところ、全ての試料においてβ-sheet構造に相当するシグナルが、50%以上の含有率で確認された。この結果から、短鎖ポリグルタミンは主にβ-sheet構造を取っていることが予想され、アミロイド凝集体構造の単純化モデルとして有用であると考えられた。 (2)^2H標識ThT(ThT-d_3)を市販のチアゾール誘導体とヨードメタン-d_3から4工程でThT-d_3を合成した。ThT-d_3と非標識の7残基ポリグルタミンペプチドの混合試料を用いて、^<13>C観測-^2H照射回転エコー二重共鳴(REDOR)実験を行い、ThT-d_3とポリグルタミンペプチド間に^2H-^<13>C双極子相互作用を観測した。現在、得られた双極子相互作用の解析と^<13>C-^2H原子間距離測定を進めている。
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