本研究では、クラスレートハイドレートを利用するコンパクトかつ高効率なガス分離・貯蔵技術の確立を目指し、ハイドレート籠を通じたガス分子の拡散機構の解明とそのモデル化を目的としている。平成21年度は、昨年度実施したTetrahydrofuran(THF)ハイドレートと同様に構造II型を形成するTetrahydrothiophene(THT)およびFuranハイドレートに対して、圧力スイングによる水素の吸蔵・放出実験を、種々の圧力条件にて実施した。両ハイドレートにおいて、ハイドレート籠非破壊の可逆的な水素の吸蔵・放出が可能であることを確認した。水素吸蔵量は圧力の上昇に伴って増大し、構造II型単位格子の最大吸蔵量1.05mass%に到達する。THTおよびFuranハイドレートの水素吸蔵速度は、THFと比較して約3倍大きかった[研究成果論文、"Storage Capacity of Hydrogen in Tetrahydrothiophene and Furan Clathrate Hydrate"]。また、これらのハイドレートへの水素吸蔵プロセスは、ハイドレートへの水素吸着と、ハイドレート籠を通じた水素拡散の二段階で成り立ち、両段階においてハイドレート内外の水素フガシティー差が推進力となることを見出した。さらに、Tetra-n-butyl Ammonium Bromide(TBAB)およびTrimethylamine(TMA)ハイドレートに対しても水素吸蔵実験を行ない、一度水素を吸わせたTBABあるいはTMAハイドレートは、二回目以降にその水素吸蔵量・速度共に劇的に増大することを発見した[研究成果論文参照]。以上の知見は、ハイドレート内におけるガス拡散性の解明につながる重要な情報であり、省エネルギー・高効率なガス分離・貯蔵技術の開発に不可欠である。
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