研究概要 |
本研究の具体的研究項目は,1.ポートフォリオのリスク量の高精度推定,2.リスク寄与度の高精度推定,3.証券化商品のリスク管理への応用,であるが,平成20年度は1と2に着手した. 1に関しては,鞍点法を用いた既存研究(Muromachi(2004))による推定手法の改良を検討した.この既存研究の数値例によると,VaR(Value at Risk)の高精度推定は可能であるが,ES(Expected Shortfall)の高精度推定はやや困難であった.その原因は,ES推定において適用した測度変換の近似精度が悪かったためと考えられたので,他の方法について検討を行ない,VaRとESの間に成立する一般的な関係式を用いて,間接的にESを推定する方法を考案した.ESはVaRの平均として表現できるので,VaRを高精度で求めることができれば,その平均であるESの推定精度も向上する。これを定式化して,あるリスク計測モデルを用いて数値的に検証したところ,ESの推定値は幅広い範囲で既存研究の手法による推定値よりも精度が向上した. 2に関しても,鞍点法を用いた既存研究による推定手法の改良を検討した。ポートフォリオにおける集中リスクを表わすリスク寄与度に関しても,既存方法ではVaRのリスク寄与度は高精度推定が可能であるが,ESのリスク寄与度は難しかった.そこで,1で用いた手法を適用し,VaRのリスク寄与度からESのリスク寄与度を数値的に算出したところ,既存研究の結果に比べて格段の精度向上が見られた. リスクの大きさを示す尺度としてVaRよりも理論的に望ましいESの推定精度の向上は,リスク管理の実践上非常に有益である.最初の成果は平成20年度に学会発表したが,今後様々ターなモデルに適用してその結果が確認できれば,実務での活用も十分に考えられる.
|