我々の研究グループによるゲノムワイドなマイクロサテライト解析の結果、2型糖尿病の感受性遺伝子の一つとしてプロテインキナーゼCε(PKCε)が同定された。また、In silico分子デザイン戦略により6万種類の化合物ライブラリーからPKCεの活性に変化を与えうる多数の化合物を同定し、分子および培養細胞レベルで効果を確認している。本研究では、新規化合物により生活習慣病、特に2型糖尿病に対する新規治療薬の作出を目指す。プロテインキナーゼC(PKC)はセリン・スレオニンキナーゼファミリーに属する分子であり、細胞内外の様々な刺激に応じて、上昇したCa2+や脂質により活性化し、様々な生命現象を引き起こす。不活性型PKCは細胞質に局在するが、活性化すると特異的アダプター分子であるReceptor for activated C-kinase(RACK)と結合し、細胞膜や細胞内小器官膜に移行し、標的分子をリン酸化することが良く知られている。我々のIn silico解析により6万種類の化合物ライブラリーより、標的領域に結合すると予測されるものを22個同定した。22個の化合物については、PKCεとεRACKの組み換え体蛋白質を大腸菌およびヒト培養細胞を用いて作製し、研究計画の通りにPKCεとεRACKとの蛋白質相互作用をビアコアにより検出し、化合物による相互作用阻害効果を検討した。その結果、8個の化合物の薬効が確認された。培養細胞においても、上記の8個の阻害剤はPMA(PKCεの活性化剤)によるPKCεの膜移行に対する阻害効果を持つことが確認できた。今後、マウスにおける病態モデルへの薬効および毒性を確認し、特許出願の準備をする。また、PKCεを標的とした創薬についての成果をRecent Patents on DNA and Gene Sequences誌において公表できた。
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