平成20年度においては、本研究の初年度ということもあり、テキストに対する基礎的研究を重点的に行った。具体的には松平定信の主著『政語』に対する書誌学的な調査を中心に行った。『政語』は、『楽翁公遺書』・『日本経済大典』・『日本思想大系』においてすでに活字化されたテキストが掲載されているが、国立国会図書館所蔵本・土佐山内家宝物史料館所蔵本・東北大学附属図書館狩野文庫所蔵本などの写本と比較した結果、文字の異同や欠落・挿入部分などが多くあることを発見した。この書誌学調査は膨大な時間がかかり、口頭発表などで成果の一部を発表したが、論文として成果を纏めるには至らなかった。平成21年度には論文として活字化する予定である。 上記の書誌学的な調査が本研究の中心であるが、他に日本思想史学会、国際シンポジウム「東アジアの陽明学」、書物・出版と社会変容研究会などの学会・研究会へ積極的に参加し新たな知見を得た。また本研究と同じく近世日本思想史を対象とした荻生茂博著『近代・アジア・陽明学』、佐久間正著『徳川日本の思想形成と儒教』の二著の書評を執筆した。さらに海外からの有力な研究として看過できないスーザン・バーンズ著『Before the nation』の翻訳を行った。 平成20年度は松平定信の主著『政語』に対する書誌学的な調査を中心軸としつつ、学会・研究会への参加、国内外を問わずに有力な研究に対するリファレンス等を補助軸とすることによって、研究萌芽の成長を促進することにつとめた。
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