おもに美術作品をコーパスとしながらシュルレアリスムの造形作品に固有な「言表行為」を語るための批評方法確立が目指された。研究対象があまりに拡散してしまわぬよう注意して、本年は制作の問題とその批評の問題が複雑に絡み合う幾人かの画家=批評家の作品に対象を絞りながらシュルレアリスムにおけるイメージの問題を多角的に考察した。とくに問題とされたのは、マックス・エルンスト、ヴィクトル・ブローネル、マッタ・エチャウレンという、重要性は意識されながら、現在までほとんど研究がすすめてこられなかった芸術家たちである。 シュルレアリスムに固有な問題系をふまえながら彼らの造形作品を再考するために、シュルレアリスムのイメージ論と付き合わせることによってそれら双方を相対化し、問題を多角的に検討した。またシュルレアリスムの射程をこれまでの美術史における批評の問題点とともに明確化するため、これまでの美術批評が用いてきた常套句を批判的に検討しながら、それをつうじてシュルレアリスムのイメージ論と造形作品に固有な問題を検討した。 これらの作家の国籍はドイツ、ルーマニア、チリなどと多岐に渡っているが、彼らはみなフランスの美術運動を経由しフランス語で思考を展開したという共通点がある。かれらの言語活動と造形作家としての活動を考察する過程で、文学あるいは美術と政治という問題が浮上した。本年度に発表した論文ではじゅうぶんふれることのできなかった問いであるので、次年度の課題としたい。
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