平成20年度は、自我に関する現象学的分析と言語分析との融合による研究を念頭に置きつつ、それに備えて、主に現象学的観点からの自我の分析を明確化する作業に取り組んだ。その過程で、まず自我と他者との関連に着目し、そこから自我の存在様式を記述することを試みた。フッサール現象学における自我論は、他者論との密接な関連のうちにある。そこで、「他者」や「唯一性」といった諸概念に関する考察を行うことによって、他者論の観点から自我のあり方を際立たせ、次のような見解に到達した。すなわち、自我と他者は「唯一性」を持つ主体として把握されるが、その「唯一性」は恒常的な更新の運動の中にあるものとして了解されることによってはじめて本来的に捉えられると考えられる。研究代表者は、この研究成果を日本現象学会第30回研究大会で口頭発表した。また、その成果に基づいた論文を学術雑誌に投稿した。この論文は、平成21年11月発刊予定の『現象学年報』第25号に掲載されることが決定している(査読付き論文)。さらに研究代表者は、現象学的自我理論の明確化の作業を進めるうちに、自我の存立において自我の「未来地平」への関与が本質的な役割を担っているという事態に着目するに至った。そして、こうした観点からなされた研究成果を論文としてまとめ、学術雑誌に投稿した。この論文は、『実存思想論集』XXIV巻に掲載されることが決定している(査読付き論文)。さらに、ドイツ・ベルギー・フランスに渡航し、フッサール・アルヒーフ等を訪問し、フッサールの遺稿を中心とする現象学関連資料を閲覧・収集するとともに、現地の研究者との研究交流を行い、研究推進のための情報を得た。その結果は、今後の研究の発展のために生かされる予定である。
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