・1年目にあたる平成20年度は、まず基本文献資料の確定に努め、19世紀文学の中で「他者」の問題が扱われている作品を調査し、そのリストを作成した。そのうち入手可能なものに関しては購入を行った。 ・19世紀フランス文学における「他者」の問題を論じるにあたっては、さま-ざまな作家が発表した一連の「東方旅行記」の考察を避けて通ることはできない。研究代表者はその中からネルヴァル、フロベール、デュ=カンという三人の作家を選び、小論にまとめた。またこのうちネルヴァルに関しては、10月、11月、12月、2月に「ネルヴァル研究会」に参加し、専門家と意見交流を行った。 ・「他者」に関する問題はとりわけフランス大革命を契機として、フランス人作家の意識に急速に浮上してくる。それゆえディドロ、ヴオルテールといった18世紀の「哲学者」たちの著作に目を向けると同時に、とりわけポーランド出身の作家ヤン・ポトツキ(1761-1815)に着目した。ポーランド人でありながら、フランス語で教育を受けたこの作家は大旅行家でもあり、また中欧という独自の視座から世界を眺めるという特徴をも持っている。彼の残した膨大な著作(そのほとんどがフランスでもまだ未研究である)は、「他者」という問題を扱う本研究にとってきわめて重要な資料体であることが確認された。 ・本研究が掲げる「他者」をめぐる考察は「文学」という分野を超えより広い地平へと広がる可能性を持つ。それゆえ代表者は10月に「地中海学会定例研究会」に参加し、この問題について西洋史や美術史の研究者と意見交換を行った。また12月には同研究会(東京大学本郷キャンパスにて開催)において発表を行い、19世紀前半の「東方旅行記」において、さまざまな旅行者(ヴォルネー伯爵、シャトーブリアン、ラマルチーヌ、ネルヴァルら)が「他者との邂逅」をどのように描き出したかという問題について論じた。
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