研究概要 |
・研究最終年度にあたる平成21年は、基本文献資料のうちいまだ入手していないものの特定に努め、19世紀フランス文学の中で「他者」の問題が扱われている作品のリスト作成、ならびに購入を行った。 ・中近東諸国にまつわる旅行記は、19世紀のフランスにおいてひとつの文学ジャンルとして認められるに至るが、その嚆矢とされるのが、シャトーブリアンが1811年に発表した『パリからエルサレムへの旅程』である。旅行記というジャンルをその起源にまで遡り、シャトーブリアンの著作がそこに果たした決定的な役割を考察して、小論にまとめた。 ・「他者」という問題を検討するためには、文学という領域を超えて、異なる分野の研究の蓄積に触れることが重要となる。このため4月、6月、7月、10月、12月と地中海学会の定例研究会に出席し、美術史や西洋史の専門家と意見交換を行った。また6月には、19世紀フランスのオリエント旅行記を題材に「他者」をめぐる様々な問題を考察した著作(Voyageurs romantiques en Orient, L'Harmattan, Paris, 2008)により、地中海学会ヘレンド賞を受賞することができた。 ・19世紀初頭に現れたポーランド人作家ヤン・ポトツキに関する研究を進めた。ポトツキはわが国ではまだほとんど知られていないが、広範な世界観と該博な知識に基づいてフランス語で著作を行った驚くべき人物である。その主要な著作である『サラゴサ草稿』を、彼が残した旅行記と併せて読み解きながら、この時代の特異な「他者」の表れについて検討を重ねた。その成果は平成22年6月にパリで行われる国際シンポジウムにて発表される予定である。
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