研究課題
今年度はまず、中世初期南アジア農村社会における権力構造を考える上での基本史料となる碑文、特に銅板文書の読解を進めた。その結果の一部は、パーラ朝王ゴーパーラ2世の未公表銅板文書の校訂・研究と、公表済み銅板文書二点の再校訂・研究として公表した。前者においては、当該文書に見られるパーラ朝支配下の将軍による仏教僧院の建立とそれへの村落施与の申請という事例を、他の碑文に見られる同様の事例と関連付けることで、これらの事例にパーラ朝初期の従属支配者層による、宗教施設の建立とそれらへの土地・村落施与の申請を通ていした在地支配の拡大とパーラ朝王の権威の合法的な蚕食の意図が認められることを論じた。後者においては、対象とした二点の銅板文書に施与地の属性として言及される数値が、パーラ朝後期の何点かの銅板文書に見られ、続くセーナ朝の銅板文書において一般的となる、貨幣価値として計算された土地生産の指標であること、またこのような慣行がゴーパーラ2世の治世に始まることを論じた。これらの研究は、未公表文書の校訂と公表済み文書の再校訂により、近年発見された重要史料を研究者の利用に供する一方で、中世初期ベンガルの農村社会における従属支配者層の活動を、王権による支配の精緻化とそれへの抵抗・両者の交渉という文脈で捉えなおす可能性を示した点に意義があった。これらに加え、ベルリン、ロンドン、コルカタおよび北ベンガル各地の諸博物館所蔵の像銘・碑文の撮影・記録と、中世初期僧院址など北ベンガルの碑文発見地の調査を行なった。特にコルカタではインド博物館所蔵のダルマパーラの未公表銅板文書を撮影するとともにアジア協会・ベンガル文学協会所蔵の諸碑文についても写真を収集した。これらの史料の解読・校訂・分析は今後の課題ではあるが、すでに北インド各地の像銘からはそれらを施与した農村有力者層の識字に関する重要な示唆が得られている。
すべて 2009 2008
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件)
G. J. M. Mevissen and A. Bgnerjee (eds), Prajnadhara: Essays on Asian Art, History, Epigraphy and Culture in Honour of Gouriswar Bhattacharya, New Delhi: Kavari Books
ページ: 319-330
South Asian Studies 24
ページ: 67-75