今年度はまず、近代のベンガル諸地方における農業の経営・形態の研究を踏まえて同地域の銅板文書の再解釈を図り、中世初期ベンガルにおける土地制度と土地保有者層の権力の在り方および相互の利害対立・交渉とそれらの歴史的変化について考察した。その成果の一部は7-8世紀東ベンガルにおける農業拡大と在地権力関係に関する研究として口頭で発表したが、それにより対象時期の東ベンガル各地方において環境および歴史的経緯の違いに伴い異なる段階の農業発展が共時的に見られ、その結果、在地従属支配者層の活動と上位政治権力との関係に対応する相違が認められることを明らかにした。 バングラデシュにおける調査では、ダカのバングラデシュ国立博物館、ラジシャヒのヴァレンドラ研究博物館、モハスタンおよびパハルプルの現地考古博物館所蔵の碑文を撮影し、モハスタン、パハルプル、ジャガッダラの遺跡の現地調査を行った。インドでの調査では、まずコルカタにてインド博物館所蔵の銅板文書の撮影、ベンガル文芸協会博物館所蔵諸碑文のデジタル写真データ収集および東インド考古研究・訓練センターでの資料調査を行った。加えて、パトナのパトナ博物館およびK.P.ジャヤスワル研究所およびヴァーラーナシーのベナレスヒンドゥー大学においても所蔵品および資料の調査を行った。 これらに加えて識字エリート層の活動と権威の確立・浸透が地域アイデンティティー形成に果たす役割についても中世初期ベンガルのブラーフマナ層を対象として口頭で発表を行った。また、これまで不十分な校訂しか行われていなかったマヒーパーラ1世のビヤーラー銅板文書についても再校訂を行い、近刊のPratna Samiksha 13巻にて公表の予定である。
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