平成20年度は、本研究の一環として、『中国農村慣行調査』を読み解いて1940年代華北農村における農民の社会関係や価値観を再構成して成稿し、学術雑誌に投稿した。この論文では、(1)1940年代の華北農村社会における村民の規範意識には「面子」観念が大きな役割を果たしていたこと、(2)「面子」意識の繋がりは知人同士で意識されるものであるために「村」という枠組みと密接な関係を持ったが、「同村民」という集合と完全に重なるものではなかったこと、(3)「村費・税金徴収」という公的な性格を持つ業務も「面子」を損なうものとして意識されていたこと、そして(4)「面子」意識の連なりによる村落の凝集は、村落内外の「力(暴力)」を前にして脆弱だったことなどを指摘した。このうち(1)(2)(3)は近代中国農村社会史研究の進展において意義を持つ知見であり、(4)は本研究の主題である中国共産党と農村社会との関連を考えていく上で極めて重要な基礎となる。なお、この論文は現在審査中であるため、下記の研究成果のリストには挙げていない。また、このような1940年代の華北農村社会における人的結合の在り方に関する知見を念頭に、これまでに収集してきた共産党の工作隊報告を慎重に分析した。この研究の成果は、平成21年6月に予定されているシンポジウムにおいて発表する予定である。またさらに、平成20年度は、長期休暇を利用して台湾に渡航し、法務部調査局資料室で内戦期共産党の関連資料の調査と収集にあたった。
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