平成21年度は、1940年代の華北農村における農民の規範意識や社会関係を明らかにした論文(前年度に学術雑誌に投稿)を、査読意見に応じて改稿・再投稿し、掲載が決定した(ただし掲載号未定)。この論文では、当該時期の華北農村社会における村民の規範意識には「面子」観念が大きな役割を果たしていたこと、またこの「面子」観念によって保たれる社会秩序は、外部の力の前には極めて脆弱であったことなどを指摘した。特に後者の知見は、本研究の主題である中国共産党と農村社会との関連を考えていく上で極めて重要である。また、本研究の主たる課題である内戦期の共産党土地改革の資料を分析するなかで、「現実」の解釈権(農民が望んでいることは何か?など)を党組織のどのレベルも安定的に持っていたわけではないことが分かった。この理解を敷衍して、中国共産党の支配の正当性が、「もっとも正しく人民大衆の意志を理解できる者」としての毛沢東に全面的に依拠していたとする仮説を立て、全国的な学会の関西部会大会でパネラーとして報告するとともに、同学会の全国大会においてこの仮説を意識しつつ「歴史・法律分科会」を組織した。さらに、本研究のテーマに関する日本の研究状況を整理した文章を執筆し、中国の学術雑誌に投稿し、査読を経て掲載された。なお平成21年8月~9月には、台湾の中央研究院近代史研究所に赴き、現地の研究者と交流するとともに資料調査を行った。
|