サルドノ・W・クスモを中心に据えつつ、インドネシアの現代ダンスの歴史と現状を調査し、考察するための第一歩として、これまで学術的にはほとんど扱われてこなかったサルドノ個人の活動に関する資料収集とその分析を本年度の研究の主たる内容とした。 当初の実施計画通り、10月下旬と3月下旬に二度の現地調査を行った。特に「2〜3月」を予定していた二度目の調査については、大学での業務の合間を縫う形になり、十分な時間を確保できなかったが(次年度はタイミングを調整し、作業の遅れを取り戻したい)、サルドノ自身の側で既に詳細な活動履歴が整理されていること、また想像以上に映像資料が多く残されていることが判明した。加えて、サルドノ自身の著作『ハヌマーン、ターザン、ホモ・エレクトゥス』はその完全な英語訳を入手し、かつてサルドノのもとでダンサーとして活動していた研究者サル・ムルギヤントによる先駆的な研究論文(NY大学に提出された未刊行の博士論文)も入手できた。インタヴューについては、地域の政治・社会状況に積極的にコミットしながら多様な活動を展開してきたサルドノの経歴について概略を知るとともに、サルドノがソロ(スラカルタ)で指導している学生の作品の記録映像をいくつか見ることができ、これによって芸術家、教育者、社会的アクティヴィストとしてのサルドノの非常にユニークな側面が見えてきた。いわゆるインドネシアの「現代ダンス」の父というイメージよりは、過激な前衛性と、多文化主義の立場ゆえに、きわめて独特の位置を占めながらも大きな影響力を保つ存在という、より具体的な認識を得た。いまだ手探りの調査・研究ではあるが、収集した資料については調査と分析を現在進めており、近く何らかの形で成果の公表を始めたい。
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