本年度は、主として日本史上・東洋史上の重要な先行研究の整理に基づき、日本列島で展開した歴史の全体像を「中国化」という切り口の下に再構成し、その中で「近現代」に新たな位置づけをあたえるという、理論的作業を行った。その成果は、「中国化論序説--日本近現代史への一解釈」として、『愛知県立大学文学部論集』57号(日本文化学科編11号)に公表したが、その概要を示せば、日本史は「源平合戦から南北朝にかけての中世前期」・「幕末の動乱から明治維新を経て立憲制が確立するまでの19世紀」・「冷戦終焉および55年体制崩壊後の21世紀への転換期」の三次に渡る「中国化」の大波と、それに対する反動の繰り返しとして描くことができる、ということである。これによって、歴史上存在した様々な文明システム・世界システムの興亡から、今日のグローバリゼーションに至るまでを全地球大の視野で把握し、日本列島の歴史を真の意味で「脱西洋中心主義化」されたグローバル・ヒストリーの一部として再定義するための、座標軸を得ることが可能となった。 また、上記のように展望し得る近現代日本社会の変化を、同時代の日本人がいかに観察していたかを考察する手掛かりとして、主として映画作品に着目した具体的分析に着手し、その成果は次年度以降にさまざまな媒体で順次、発表される予定である。なお今年度は、直接に本科研費を使用した上記論文以外にも、内容的に本研究と密接に関連する論考を、国際政治学の共著書・アジア研究の雑誌・文化人類学の学会発表などの形で公表し、極めて学際的な議論の場を得ることができたため、その書誌についても本報告書に掲載した。
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