平成20年度は、主として先代旧事本紀の基礎データ作成作業を行った。具体的には、天理図書館吉田文庫の先代旧事本紀の調査、兼永本先代旧事本紀の電子データ化および古事記・日本書紀・古語拾遺との比較データ作成、近世の先代旧事本紀刊本における注釈状況の確認が、その作業の内実である。 これらの作業により、1)先代旧事本紀に先行する資料と先代旧事本紀との関連、2)古事記・日本書紀の対照性が明らかになった。特に、先代旧事本紀に独自の記述において、先行資料には見られない表現が多く見つかり、これを中古の日記資料等と比較することで、先代旧事本紀の成立の一端を明らかにすることができるものと期待される。これは、ひいては日本紀言説の成立そのものの解明につながるもので、その意味で大きな意義を持ちうる。 さらに、すでに巻第一〜第四において検討した、文末助字について、巻第五〜第九では、その様相を異にすることがわかった。これについては、旧事本紀全体の問題として、平成21年度中に論文化し、公にする予定である。 また、一連の作業を行う中で、古事記の世界観との関連箇所を考察している途中、古事記についての発見があり、これを「『黄泉比良坂』追考」として公にした。
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