今年度は、先代旧事本紀の電子データの確度向上を行うとともに、先代旧事本紀に利用された諸資料との対校データの作成を行った。また、前年度に引き続き、天理図書館を中心とした、吉田家旧蔵資料の調査を行った。 申請時にも述べたとおり、先代旧事本紀は日本紀言説の端緒として位置づけられるテキストであり、そのデータ整備は日本紀言説研究の始発を整えることにほかならない。整備されたデータについては、より適切なかたちでの公開を企画している。その際、旧事本紀の校合作業を行う目的から、吉田家旧蔵の先代旧事本紀および日本紀言説に関連する資料を調査したところ、近世吉田家の日本紀言説の展開を考えるにあたり、重要語の高いと考えられる資料を発見した。これについては、平成22年度中の公開を予定している。 さらに、先代旧事本紀と古事記との対応を調査分析したところ、古事記自体の文体についての新たな知見をえることができた。これについては、「本牟智和気御子と品陀和気命」(『古代文芸論叢』おうふう)および「古事記における「子」と「御子」」(奈良女子大学『叙説』37号)として、論考を公にした。 2年間の助成を得た結果、先代旧事本紀を中心とした平安初期の日本紀言説と、それ以前の資料との対応関係を考える基盤が整ったものと考えている。また、平安期以降の日本紀言説を考えることで、現存資料の乏しい上代関係の文献についても、逆照射することで新たな研究の展望が開けることがわかった。
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