今年度は本研究3回目の現地調査をマニガンジ県バイカンタプール村において実施し、衛生施設の普及状況や人々が受けている衛生教育、ならびに人々の衛生習慣について調査を行うことができた。具体的成果は以下のとおり。 (1)衛生施設の普及状況:バングラデシュではリングラトリンというタイプのトイレが普及していると言われているが、対象地における普及率は必ずしも高くなく、貧富の差とトイレの導入に関連性が見られた。トイレ設置の手順やコストについてもヒアリング調査から確認することができたが、コスト面が導入時の障害になっているという。対象地ではBRAC(大手NGO)がかつてトイレ導入のためのマイクロクレジット支援も実施しており、一定の効果を挙げていたことが把握された。 (2)衛生教育:小学校では、水・衛生関連の衛生教育は3~4年生の「理科」の授業内で学習しているとのこと。バングラデシュでは小学校の教科書が政府より無償配布されるため、かえって本屋等での入手が困難であり兼ねてよりの懸案事項となっていたが、今回生徒たちが利用している教科書を入手し、その内容を精査することができた。授業でカバーしている内容について、小学生から聞き取りで確認することもできた。 (3)衛生習慣:主に手洗いと石鹸の使用について、聞き取りおよび観察を実施した。観察を実際に行うことで、インタビューで得られた回答とは異なる実態が把握されるとともに、人々のなかの「あるべき」状況の理解も深まった。石鹸へのアクセスについては、村内のキオスク等にて商品調査を実施し、住民へのヒアリングをあわせて行った。また、伝統的には泥を利用して洗っていたこと、NGOの紹介によって石鹸を利用できない家庭では灰で手を洗うことが推奨されたことなどが分かった。 なかなか実態が把握されにくいとされている衛生行動や意識の状況について、上記の調査結果を含め本研究にて基礎資料として事例研究を蓄積できることの意義は大きいと考えられる。
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