本年度はイギリスでの現地調査により、地図や歴史的文献資料からは判断することの難しい庭園の地形・地勢・植生等の現況把握を行った。加えてイル・ド・フランス地方で18世紀後半に観賞用農園やイギリス風景式庭園からの強い影響下で成立した庭園の残存部分を視察し、巡回式庭園の歴史的受容の一例として参照した。現地では庭園管理者からの聞き取り調査や撮影を行うことで庭園や周辺地域の状況を立体的に把握して文献・視覚資料の読解に資すると共に、国内で入手・閲覧が不可能な資料や出版物の入手・調査を行った。シェフィールド大学提出博士論文および手稿資料の一部は渡航前に複写データを入手し、渡航中にその他の手稿資料を参照した。調査対象とするバーミンガム市周辺およびイングランド中西部の巡回式庭園については現地調査に加え文献資料調査を行った。特にサリー州歴史センターでは主にペインズヒル庭園に関する所蔵資料の調査を行った。また、非公開の庭園については現地のアーキヴィストに依頼して地図や文献資料などの入手を行った。ベルリン自由大学提出の博士論文については翻訳・読解作業を部分的に行った。一連の調査の過程で、リーソウズ庭園から何らかの影響を受けたと思われる例が複数判明した。碑文などの文学的モチーフを巡回式庭園の構成要素として用いた例は散見されるものの、それぞれ異なる発想の下で用いられており、類似よりもむしろ相違の方が顕著であることが判明した。調査対象地域を中心にほぼ同時代に成立した巡回式庭園の間には何らかの相互影響関係が存在することは確かだが、単純に他庭園の特色を取り入れて成立したものとは考え難く、庭園の規模・形態や目的に応じた造園・鑑賞方法が求められたと推測される。
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