「道書類」を中心とする陽明文庫蔵仮名法語類の調査・研究のため、前年度に引き続き、各作品の特定、および全文の翻刻紹介と考察に努めた。本年度は「道書類」に収められた十八種のうちすでに全文翻刻紹介をおこなっている四作品(『雲居月双紙』、『恋塚物語』、『幻中草抄』、『宝物集』)に加え、あらたに、『法然上人念佛教化詞』および『二十三問答』の二作品について内容を特定し、本文系統を明らかにした上で、全文翻刻を紹介発表した(『三田國文』49号、50号)。上記の作品以外についても、内容の特定作業と翻刻紹介を継続しておこなっており、次年度刊行予定のものに投稿済みである(『三田國文』51号ほか)。 「道書類」における各書物の特定、および書写状況、本書物群の意義について、これまでの調査・研究過程で判明したことをまとめ、2009年12月に開催された第十回クリスマス研究集会「中世宗教テクスト研究の可能性」で、「尼門跡および尼寺-女性のまなざしの許にある宗教テクスト-」と題し、発表をおこなった。とくに、これまで江戸初期の開版以前の書写状況についての考察があまり進んでいなかった禅宗仮名法語について、尼僧による需要という観点からの考察を進めた。さらに研究会席上での議論を踏まえ、成稿化した(『中世文学と寺院資料・聖教』竹林舎2010年度刊行予定)。 一方、本研究にかかわる中世寺院圏における物語草子・説話の生成と享受という視点から、口頭発表や論文発表等をおこなった(仏教文学会本部十月例会発表、『修験道の室町文化』岩田書院(分担執筆)論文ほか)。さらに、本研究の基盤的研究である比丘尼御所の文芸・文化についての研究成果のひとつとして、現存尼門跡の所蔵絵巻について釈文や解説を付した『薄雲御所慈受院門跡所蔵大織冠絵巻』をまとめ、勉誠出版より2010年3月に刊行した。
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