本研究は、(1)イギリス成人教育政策および実践における芸術の位置づけ、(2)アーツ・カウンシル教育部門に着目した文化政策と教育政策の接近、(3)コミュニティ・アート運動の展開と文化政策への提言、(4)アーツセンターの設立経緯および運営内容 という4つの主題を明らかにすることを目的としている。 本年度は、まず前年度の基本文献収集および基礎調査を継続しながら、イギリス成人教育政策及び文化政策の検討を行い、イギリス文化政策に関する通史的な理解を得ることができた。 また、そうした基礎調査を踏まえ、イギリス現地調査を行なった。特にヴィクトリア&アルバート美術館資料室にて、アーツ・カウンシルの資料調査を重点的に行なった。その結果、1970年代にアーツ・カウンシル内で芸術の教育普及、コミュニティを重視する機運が高まり、「成人教育とアート」という問題領域に関して、各地の大学や団体が集まっての大規模なシンポジウムが開催され、そこに関わった研究者らにより、現在まで続く着実な議論に発展していったことが明らかになった。 さらに、英ロイヤル・アルバートホールなどの劇場・集会施設の調査も行い、すでに実施している日本の多目的ホール(特に日比谷公会堂に注目した)の成立史と比較して考察することができた。それにより、近代市民社会における集会施設の果たした役割、「人が集まることの意味」などについても、当初の計画からさらに発展的に深め、考察することができた。 こうした日英比較の視点を通して、研究を各国のケーススタディにとどめず、(1)文化政策および生涯学習・社会教育政策の充実、(2)民間非営利の学習文化活動の支援、(3)地域社会における公共文化施設の持つ意味など、政策・実践両面において、市民社会を豊かに支えていくための国際的な視野を獲得することができ、きわめて有用な調査となった。
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