本研究は5世紀のアジャンター壁画を起点に南インド(7〜11世紀)を介し、スリランカ古代・中世(〜13世紀)までを射程とし、インド古代絵画がいかに伝播し、各地域で変容を遂げたのか、その流れを浮彫りにするものである。2008年度の実地調査は、2009年2〜3月にアジャンター、南インド、スリランカ南部にかけて実施し、調査実施以前にも仏教学・歴史学の側面から資料収集整理を行った。 まず調査のため、9月中旬より東京国立博物館で開催のスリランカ展キュレーターおよび訪日中のコロンボ国立博物館副館長Senerath Wickramasinghe氏との意見交換を行った。それを基礎として2009年3月同氏とともに発掘中の遺構及び中世壁画を有する寺院や博物館の撮影調査が可能となり、貴重な資料を得た。調査では寺院空間と壁画主題の選択・配置とその効果等に注目しつつ、昨年実施した調査から漏れた地域や中世以降の壁画(スリランカ南部)を実見し、寺院の壁画装飾と仏教説話図の表現形式について検討する機会を得た。 また創価大学・国際シンポジウム(11月)ではP.Skilling博士(フランス極東学院)より南インドの新出仏教遺跡の情報を得て、2月スリランカと密接な影響関係にある南インドの仏教遺跡および7-8世紀以降のヒンドゥー教寺院の調査、また起点であるアジャンター壁画調査を実施した。 これまでスリランカ絵画に関する十分な研究資料は我が国では提示されていないが、昨年から継続して収集した遺跡壁画の写真資料をまとめ、古代・中世(前半・後半)壁画の特色について紀要等で報告する予定である。 なお、 H20年度の研究論文は、寺院空間と仏教説話に注目し、本研究の起点となったアジャンター石窟の授記説話図について寺院空間の観点と異文化地域からの仏教の思想的伝播と説話解釈の独自のコンテクストを論じた。本研究課題は、広範な時代と地域・宗教を扱うものだが、本研究論文の視点はこれら多様な要素を分析する上でひとつの基準になるものと考えている。
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