研究課題
本研究は5世紀アジャンター壁画を起点に南インド(7~11世紀)を介し、スリランカ古代・中世(~13世紀)を射程とし、インド古代絵画がいかに伝播し、各地域で変容をしたのか、その流れを浮彫りにするものである。最終年度はスリランカ主要遺跡における再調査とアジャンターでの壁画調査を2010年3月に実施した。スリランカではアヌラーダプラ、ポロンナールワ時代に属する絵画資料の収集を行った。コロンボ国立博物館副館長ウィクラマシンゲ博士らと実地調査を行った。2年間の調査により、殆ど日本に未紹介のスリランカ壁画の網羅的な壁画画像資料(島東南部を除く)が入手できた。なお、これら資料を含めスリランカ古代壁画概説として報告してゆく。これまでの調査によりアジャンターの絵画表現はパッラヴァやチョーラなど南インドへ伝播し、スリランカでは南インドの影響を受けつつもインド古代絵画に見る量取りによる立体感や肥痩のある線描などを受け継ぎながらも、空間の奥行きなどが排除され、ポロンナールワではより平面性が強まる傾向がみられ、面貌表現や体躯の表現にはスリランカ彫刻に通ずる様式美の確立がみられることがわかった。なお、平成21年度の研究発表・論文はいずれも寺院形態を残すアジャンターをめぐって、二種の授記説話図について、異文化地域からの仏教の思想的伝播と説話解釈の独自のコンテクストを論じ、さらにアジャンター第17窟の「帝釈窟説法」と「生死輪廻図」の主題の配置と教義的連関について試論を提示した。また、東京文化財研究所による依頼として取り組んだアジャンター研究では、20世紀初頭の模写や文献を精査し、現在では観察不可能な壁画に関する初期の見解や、重ねて保存科学の立場からの研究に立ち会い、彩色の順序、下地のプラスター処理といった新情報を得ることができた。これはスリランカでの調査資料とともに今後の南アジア絵画史を扱う上で重要な意義を有する。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
インド・日本文化遺産保護共同事業報告:アジャンター壁画の保存修復に関する調査研究事業―2008年度(第1次ミッション)*編集・発行独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所/Archaeol ogical Survey of India, India(報告書における依頼論文) 第1巻
ページ: 13-29
佛教藝術 304
ページ: 3-6, 9-36