本研究は、ジョルジュ・バタイユさらにはそれを取り巻く知識人が1930年代に展開した「ユニヴェルセルなシステム」を巡る社会理論の受容と変遷、その有効性を探る研究である。その主眼に則り、本年度は、「普遍/個」というシステム理論を涵養した30年代の思想風景を、幾つかの補助線を頼りに捉えようと試みた。 1. 1930年代のフランスの知的奔流の書かれざる歴史を辿る試みを行った。渡仏し、パリ第8大学名誉教授Jean-Michel Rey氏に複数回のインタビューを試み、60年代フランスの知的風景についての生の情報を得た。「テル・ケル」などの歴史的な雑誌刊行の裏側で「あまりに人間的な」思惑が錯綜する様子などは、歴史の目撃者のみにしか分からぬものであり、また、その生の証言は「書かれた」歴史と驚くほど異なるものであった。さらに、当時の知的風景と30年代の知的風景との結節点についても、興味深い証言を得ることができた。このインタビューの詳細は、日本語訳し、詳細な校注をつけ、発表する予定だ。 2. 「ユニヴェルセルなシステム」理論の思想的基盤を検証した。この問題は、畢竟、システムが外部を取り込みうるかという問題へと逢着する。この問題意識は、当時のフランス知識人達を日本の「禅」思想へと向かわせた。彼らは「禅」を、「悟り」という契機を通じ、「個」が「外部」へと越境するシステムと捉えたからだ。この解釈がいかなるものであり、それが「禅」の本来的解釈をどれほど正確に反映しているかについての論考を試みた。本論考は、ルーヴァン・カトリック大学で5月に開催されるコロック「日本におけるフランス研究」に於いてフランス語で発表される。また「言語」というシステムの地平から、バタイユ、バルトの思考を跡づけ、彼らの理論の枠内で、テクストというシステムが「現実」という外部を取り組みうるか否かについての論考を『立命館経済学』に発表した。
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