研究概要 |
中世文化史上重要な価値を有すると考えられる、南都興福寺属の楽人狛朝葛著の『続教訓抄』の基礎研究として、(1)『続教訓抄』伝本の調査・収集をおこなった。本年度は、上野学園大学日本音楽史研究所、東京国立博物館などに所蔵される伝本を調査し、伝本研究上重要と思われる伝本の紙焼き写真を入手した。(2)『続教訓抄』最古の伝本で、もっとも重要と考えられる曼殊院本について、所蔵者の許可を得て頒布された紙焼き写真による本文の検討及び翻刻を進行中である。『続教訓抄』の伝本調査・検討は継続中であるが、調査の中間報告として、「『続教訓抄』伝本考」(大阪大学古代中世文学研究会200回記念例会、2008年6月28日、大阪大学)において、『続教訓抄』の現存伝本が曼殊院本を源流とする可能性が高いことを述べた。(3)楽書の生成に関して、楽家において、親から子へと「秘伝」が相承される際に、秘伝を記した既存の楽書をもとにさらに新しい楽書が作られていくという、秘伝の相承とそれにともなう楽書生成の実態の一端について考究し、「秘伝の相承と楽書の生成(1)-〔羅陵王舞譜〕から『舞楽手記』へ-」(『詞林』44、pp62-78)にまとめた。(4)音楽伝承に関する研究として、王権の推移にともなって、王権によって価値づけられた楽器の伝承が消長する様相について、「Instruments and Kingship: Changing Discourse of Instruments as Regalia in Medieval Japan」(The 12th International Conference of the EAJS、2008年9月22日、Salento University, Lecce, Italy)として口頭発表をおこなった。音楽と政治が密接に結びついていた中世において、音楽に関わる伝承までもが政治と連関していたことは、日本の中世の特質を考える上でも重要といえる。
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