本年度は当該研究期間の最終年度に当たるため、文化に対する公的サービスに関する文献資料の分析及び実際にどのように運営されているのかを調査(ヒアリングなど)し、フランスにおける芸術文化に対する関わり方について総合的に考察した。昨年度は、文化は公的サービスと見做されているのかという観点から、文化省創設当時の文献資料及び関係論考を検討し、音楽政策の研究者マリオ・ダンジェロ氏に対するインタビューを行うことができた。これらから、文化が公的サービスとなるのか否かは未だに議論の分かれる問題であることが理解された。続いて本年度は、芸術文化に対する公的関与について、より具体的に検証するため音楽分野を中心に検討した。2009年9月にはフランス公文書館において、文化省に音楽課が置かれる前後の資料を渉猟し、政策立案過程を探ることができた。これに加え、音楽に対する施策を実践する施設も数か所訪問することができ、具体的な状況を見ることができた。例えば、「現在の音楽」拠点整備事業SMACに指定されている施設では、音楽企画の実施状況報告書を閲覧でき、施策の具体的実施状況を把握できた。 これらの研究成果として、文化経済学会における個人発表及び書籍『現代フランスの音楽事情』を刊行した。これらでは、本年度の研究成果のみならずこれまでの成果も併せて総合的に検討したため、芸術文化に対する公的関与の全体像に近づくことができたと考えられる。しかしその一方で、芸術分野による相違も考えられるため、検討対象とする分野をより絞ることが課題として残された。
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