研究概要 |
平成22年度は,長崎・熊本両県における実地調査(平成21年度実施)の結果を整理し,言語地図を作成したうえで各語の歴史を考察した。キリシタン語彙'contas'及び'rosario'(ポルトガル語。カトリック信者が「ロザリオの祈り」をおこなう際に使用する念珠)については,Ogawa(2010)「A Geolinguistic Study on the History of Reception of 'Contas' and 'Rosario' in the Kyushu District of Japan after the 16th Century」に,'Amen'(ヘブライ語。「まことに」「たしかに」の意。のちに「かくあれ」「そうでありますように」の意), 'gentio'(ポルトガル語。異教者,未信者),'cruz'(ポルトガル語。十字架)の3語については,Ogawa(in press)「On the decay, preservation and restoration of Christian vocabulary in the Kyushu district of Japan since the 16th century」に英文で発表した。両者とも審査付の国際学術雑誌であり,本研究の重要性及び関心の高さがうかがわれる。 なお後者は,第6回方言学・地理言語学国際会議(International Society for Dialectology & Geolinguistics, 6. SIDG congress)における口頭発表が認められ(審査有),発表時には,結論の1つ「近年,キリシタン語彙の非キリスト者による商業的利用が進んでいる」点について,ドイツBamberg大学名誉教授Wolfgang Viereck博士,スペインBarcelona大学教授Maria-Pilar Perea博士,オーストリアKlagenfurt大学教授Herta Maurer-Lausegger博士より,ドイツ,スペイン,オーストリア,イタリア各国において同様の現象がみられることが指摘され,世界的な現象であることが初めて明らかになった。 次年度以降も,引き続きキリシタン語彙一語ごとの語史研究を進め,これに'vidro','banco'などの一般外来語の語史も併せ(調査済),中世期以降の渡来語の受容史の全体像を明らかにしていきたい。
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