本年度は、中世から近世、近世から近代という、それぞれ時代の過渡期において王朝物語がいかに受容され、研究成果や学問あるいはその基盤がいかに受け継がれ、展開したかという問題を重点的に扱った。 まず中世から近世については、『源氏物語』をベースに、源氏学とそこに分かちがたく存在した有職学に的を絞って検討した。具体的には、宮内庁書陵部所蔵『源語装束抄并肖柏問答抄』を起点として検討を行い、一条兼良の源氏学が、後継者たちによって書名のとおり「装束」という側面に特化した形で受容された結果、近世においても有職家たちに受容されたことを明らかにした。また同じく中世から近世にかけての源氏学の展開について、『紹巴抄』に関する考察結果を論考化した。 次に近世から近代については、黒川春村の『古物語類字鈔』を中心に検証した。『古物語類字鈔』が作成された背景には、江戸末期に和学者たちの間で物語を総合的に扱い考察する機運が高まったことが認められる。一方、『古物語類字鈔』は明治期において近代の国文学者たちにも大いに参照され、そのことが現代における『古物語類字鈔』利用にも繋がっていると思しい。このように『古物語類字鈔』が明治期に用いられたのは、春村が和学講談所に属していたこと、当時の同僚たちならびに黒川家の後続たちが明治期の国文学研究を担う立場にあったことが少なからず影響していることを明らかにした。この問題については、来年度論考化していくこととしたい。
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