平成22年度における資料収集および聞き取り調査によって明らかになった成果はおおきく下記の2つにまとめられる。 1.モンゴル牧畜民にとって「砂漠化」とは干ばつや河川水の減少である。これらへの対応は従来移動であったが、定住化が進んだ現在、人と家畜と草原に立脚した伝統的な知識を活用しつつ対応している。そうしたなかで、農耕への依存が拡大している。灌漑による飼料栽培だけでなく換金作物の栽培も拡大し、モンゴル牧畜民の農耕とのかかわりが急激に変容している。また、市場を巧みに活用し、家畜を売却によって処分することによって「砂漠化」の被害を最小限に抑えるだけでなく、家畜を淘汰している。家畜の経済的な価値の大きさは研究代表者が当初より注目していたことであるが、牧畜と市場経済の親和性があらためて示唆されるとともに、交易など歴史的な研究が必要であることが明らかになった。 2.環境保全を企図した政策が必ずしも環境保全につながらない背景の一つには、政策立案者、地元政府と地元住民において「砂漠化」および「牧畜」認識が異なることがある。それは、モンゴル牧畜民と漢族農民の「緑」と家畜への認識の相違である。 3.牧畜だけでなく、農耕においてモンゴル牧畜民の伝統的な知識が活用されている。その土台にはモンゴル牧畜民の世界観を支える人と家畜と草原の3つの関係がある。しかしながら、この関係は現在環境政策による強制移住によって急激に破壊されている。モンゴル牧畜民の伝統的知識および世界観の総合的および比較研究が急務である。 国内外での積極的な公開に重点をおき、研究成果を国内外の雑誌、図書に加え、日本文化人類学会、The 16^<th> Congress of IUAESなど文化人類学関連の学会、IHDP、ヨーロッパ科学財団後援による国際会議など、国内外で広く公開した。
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