平成20年度は、近世後期上方語の逆接条件表現について、活字資料による用例調査を行った。具体的には洒落本大成(中央公論社1978-1988全30巻)から上方で出版された洒落本を選定して目視悉皆調査を行い、平成20年度の分析対象であるガ・ケレド類の用例を優先してデータベースを作成した。次に、データベースを利用して上方洒落本におけるガ・ケレド類の使用頻度、及び機能、ケレド類の形態のバリエーションについて分析を行った。研究代表者は既発表論文において同様の分析を同時代の江戸語について行っており、これにより、同時代の2方言を同一の視点で比較・分析することが可能となった。その結果、同時代の江戸語との使用頻度の相違点(上方語ではケレド類が優勢で、江戸語ではガが優勢)、また機能と形態のバリエーションの共通点(江戸語、上方語ともにケレド類は逆接専用形式・ケドの使用はほぼ見られない)などが確認された。以上の成果について、近代語学会研究発表会(平成20年12月13日百合女子大学)で口頭発表した。 また、1月下旬に近世後期上方語の一次資料の収集を行った。具体的には、稀少な近世末期の上方語の資料の一つである『穴さがし心の内そと』(一荷堂半水・元治(1864-1885)頃刊)を所蔵する、名古屋市蓬左文庫(名古屋市東区)に調査に行き、所蔵書の写真版の複写を行った。また、複写と所蔵書の実物との照合を行って写真版において不鮮明な箇所などの翻刻作業を行った。今後この資料を調査することによって洒落本よりも時代の下った近世末期上方語の様相の一端を、信頼性の高い一次資料をもととして明らかにすることができる。
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