本研究は、20世紀ドイツにおけるヨーロッパ統合運動を、戦間期からの人的・思想的な連続性と断絶という観点に着目しつつ、実証的に研究することによって、積極的にヨーロッパ統合に関与する現代ドイツ政治の思想的・歴史的・社会的基盤を明らかにしようとするものである。本年度の研究実績は、大別して以下の5点である。 1、前年度に引き続き、国内外の図書館の活用などを通じて、本研究の中心的な検討対象である「ドイツ・ヨーロッパ連盟」関連資料を収集・分析した。 2、本研究のなかで重要な位置を占めるヴィルヘルム・ハイレの戦間期から戦後の思想・活動を再検討した。この成果は、「『中欧』と『ヨーロッパ』のあいだ」という小論として『創文』2010年5月号に発表予定である。 3、また、戦後の保守派のヨーロッパ像にも甚大な影響を与えた国法学者カール・シュミットの「広域秩序」構想について検討し、「第三帝国下の「中欧」の運命-カール・シュミット『国際法的広域秩序』を読む」という論文にまとめ、『新世代法政策学研究』(北海道大学情報法政策学研究センター)第2号に公表した。 4、本年度の最も大きな研究成果として、近現代ドイツにおける「中欧」概念についてドイツ・ナショナリズム研究の視角から討究した著作『中欧の模索-ドイツ・ナショナリズムの一系譜』を創文社から公刊した。 5、さらに、戦後西ドイツのカトリック保守派のヨーロッパ統合運動である「アーベントラント」運動を、戦間期からの人的・思想的な連続性という観点から研究した。これは本年度に新たに着手した研究対象であるが、この研究の成果については、近々公刊される予定のヨーロッパ統合史に関する論文集に収録予定である。
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