研究概要 |
本研究の目的は,教師の体育授業中の「出来事」への気づきとそれに対する「推論-対処」を導出するための「出来事」調査票の開発とその有効性を実際の学校現場の体育授業を対象に実証することである。得られた結果の概要は次の通りである。 1.教師の授業中の「出来事」への気づきを調査するための「出来事」調査票を試作した。 2.上記の調査票を用いて,1授業あたりの教師の「出来事」への気づきの頻度数を比較した結果,優れた教師(態度得点および運動技能を高めた教師)はそうでない教師に比して「出来事」への気づきが有意に多かった。これより,学習成果の向上には教師の「出来事」への気づきが深く関わっているものと考えられた。今後,どうすれば授業中の「出来事」に気づけるようになるのか検討することで,優れた教師になるための一つの道程が得られる可能性は高いものと考えられた(本研究の結果の意義)。 3.単元全体における「推論-対処」の記述内容量を比較した結果,優れた教師はそうでない教師に比して「合理的推論-目的志向的対処」と「文脈的推論-目的志向的対処」の2つの推論-対処」の記述内容量が有意に多い結果が共通して認められた。 4.上記4で認められた2つの「推論-対処」の記述内容をみた結果,前者からは教材との間で生じる子どもの技能的なつまずきを予測して,それに対する手だてを十分に準備していたことが,また後者からは子ども一人ひとりの学習過程を看取しようとする姿勢の強いととが,それぞれ考えられた.とりわけ,「対処」の記述内容から,優れた教師は体育・スポーツ諸科学の知見を豊富に有していたことが認められた。この結果は,教師のキャリア発達のための一つの手がかりと成り得るものと考えられた(本研究の結果の重要性)。 以上,試作した「出来事」調査票は教師の授業中の「出来事」への気づきを調査するためのものとして,妥当であるものと考えられた。
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